Be togather
あいつがこの仕事から離れる事を
オレはとめるつもりにはなれなかった。
天国がトップモデル「HEAVEN」の活動を休止してから半年。
オレ、沢松健吾は報道部員として天国を見守っていく事を続けていた。
オレは天国がモデルを始めた頃に知り合い、それ以降ずっと付き合いが続いている。
最初に会ったきっかけはオレのお袋が天国のマネージャーをすることになったからだ。
モデルを始めたころと言っても、天国はガキの頃からこの仕事を始めているから。
決して短い付き合いではない。
そして、浅い付き合いでもなかった。
お袋が天国のマネージャーを辞めてからも、オレは天国とはよく会っていた。
本来なら無関係のオレが撮影所に来るなんざほとんど考えられない。
だが、天国はオレが傍に居ることを望んでくれた。
だからってわけでもないけど。
俺たちは、自惚れじゃなく、お互いが本当に大事だと言える関係だと思う。
といっても、オレだって何にもせずにぼけっと天国と居たわけではない。
天国が撮影に来るときは、いつもオレはアイツのメシやらなんやらのこまかい荷物なんかを用意した。
まあ、結局実質は付き人みたいなもんで。
長いことそれをやってると周りの人間とも信頼関係…みたいなもんが生まれてくる。
だから、天国が休業発言をした時に、オレは散々言われた。
「HEAVEN」を説得してくれと。
尤もそんなつもりはオレにはなかった。
あいつがずっと前から望んでいた事だったから。
############
「なあ、あんた。」
「ん…?」
この日、お袋の忘れ物を届けるため、オレは久しぶりでよく天国と仕事に来ていた撮影所を訪れていた。
天国が休業した事で、風当たりが強くなっているかとも思っていたが。
天国自身から説得させたので、それが功を奏していたのか、顔見知りのスタッフたちも笑顔を見せてくれた。
そして帰ろうかと言うときに、オレは声をかけられた。
「…デビューしたての新人アイドルさんが、何か用か?」
そこに居たのは、天国の素顔が世間に知られたきっかけとなった場所にいた少年。
明嬢高校野球部2年・雛壇祀だった。
現在はアイドルグループの紫SHKIBUのリーダーとして、芸能界にその地位を築きつつあった。
「あんた…「HEAVEN」さんの…付き人だったんだべな。
聞きてぇことがあるだが…。」
「あ?何だ?」
答える義理はない、とは思った。
けど、随分と雛壇は思いつめた顔をしていた。
放っておいても構わないが…まあ聞く時間はないわけでもない。
オレは殆ど気まぐれで、このアイドル君の話を聞くことにした。
「…悪いだな、いきなり呼び止めて…。
んだば、オラどうしてもおめに聞きてぇことがあんだ。」
「かまわねっすよ、一応学生としちゃあんたのが先輩だし。
で?なんすか、聞きたいことって。」
「あん人は…HEAVENは…
今年で野球をやめちまうのか?」
「……!」
意外な事を聞かれた。
てっきり、なんであいつがモデルを辞めたのかとか、そんないつも聞かれる事を聞かれるかと思ったのに.。
それだったら、コイツにいつも通りの答えをやっていた。
けど。
「その答えは、オレは知らねえよ。」
それが事実だった。
1年、という期間はあくまで今の決まりでしかない…。
尤も、天国がモデルに戻るならば更に何ヶ月かはいるだろうが。
今まで人を魅せる為だけに作りこんできた身体を、今あいつは初めて自分の為に使っているのだ。
野球と言う、日々身体を酷使する方法でもって。でも、本当に楽しそうに。
かといって、天国はモデルを辞めたいのかといえばそうでないことも知っていた。
あいつは、人の期待を無下にするようなことは出来ない人間だ。
だから、天国の迷いは分かってる。
だから、オレはあいつの出すべき答えは知らない。
今はあいつしか知らない事なのだから。
「…あんたはどうして欲しいと思うわけ?雛壇サン。
HEAVENのファンとしては、早めの復帰希望?」
聞いてから、自分でも珍しい事を聞くと思った。
「…「猿野」に会うまではオラもそう答えてただ…。
けど…今オラは猿野に野球止めて欲しくねえ。
モデルとしてのあん人もきれーだけんど、野球やってるあん人すげえ好きだべ…。」
「…そっか。」
困ったように、テレながら。
ストレートな答えぶちかましてきやがった。
嫌いにゃなれねーな、こいつ。
それに思ったより面白いじゃねえか。…いいアイドルになるな、多分。
って、今はそのこと関係ねえな。
まあいいや。
「オレもそうだよ。」
オレは、雛壇に同志を見るような顔をしてやった。
「あ、あんた…!」
「オレは沢松だ!頑張れよ〜アイドル!
天国が復帰した時に一緒に仕事できるくらいになっとけ!」
少しくらい、後押ししてやってもいいかもな。
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いいんだよ、天国。
野球したきゃ野球しろ。
モデルに戻りたきゃ戻れ。
どんなお前だって最高に好きだから。
どんなお前だって絶対に傍にいるから。
end
う〜ん、「君の名は」シリーズの裏設定話第2弾…みたいな。
だんだん天国の登場が減ってますね。
今回は結局沢松と雛壇しかいないし…。
でも、沢猿っていうとこんな感じなんですね…私にとっては。
椰さま、何ヶ月も遅れまして本当に申し訳ありませんでした!
読んでいただければ本当に嬉しいです!
ではでは、今日はこの辺で。
ドラマCD、沢松の声だれかな〜〜すっごく楽しみです〜〜。
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